2019年1月8日火曜日

中学生でもできる論文中の表現チェック

論文の書き方を解説する書物やWebページは世の中に溢れているけど,正直言ってどれも実際の教育の現場ではあまり役に立たない. というのも,その文章ををしっかり読み解き,理解できるだけの読解力,想像力,経験値がある人なら,ある程度作文力もあるはずだから. 論文執筆は難しい.自分にとっても未だに難しい.そんな難しい文章作成のコツが,文章を読むだけで理解できる,なんて甘い話ではない.

そのような本を読むんでも抽象的すぎてピンとこないという人向けに,中学生でもできるはずの簡単なものだけを厳選して, 実際の大学院生が論文中に書いた文(一部改変)を例を挙げ,どのように修正したかを紹介する.

「の」を3つ以上連続させない

× 物体の形状の大きさの違いの推定誤差への影響を・・・
○ 物体の大きさに対する推定誤差の変化を・・・
(2013年12月,M2)

「の」でつながる修飾語句が多いと,各修飾語句がどの単語を修飾しているのか,定まらないという曖昧性が生じるので分かりにくくなる.

無駄な「~について」「~を行う」に注意

× 実験では,提案手法による○○推定について,14回の試行を行った.
○ 実験では,提案手法による○○推定を14回の試行した.
(2013年12月,M2)

「ついて」とか「として」を付けてしまうとぼやかした表現になってしまう. 上の場合,「○○推定について~する」と書くと「○○推定についての△△を~する」のように, 「~する」直接の対象である△△が省略されていることになり,結局何をしたのか分からなくなる.

無駄な「~しまう」「~という」を使わない

× 美観を損ねてしまうという問題がある.
× 美観を損ねてしまう問題がある.
○ 美観を損ねる問題がある.
(2017年7月,M2)

「しまう」はネガティブな印象を与える情緒的な言葉.上の文では「問題」という単語がすでにネガティブなので, そこにさらにネガティブな単語を足しても,結局具体的に何が問題なのかの理解が深まる訳でない. 論文は,本来第三者を納得させるものなので,なるべく第三者が同意しない可能性のある著者の主観(気持ち)を排除する.

「~という」は,「として」とか「ついて」と同じで,

主語と述語が噛み合うようにする

× 本論文では,○○を開発する.
○ 本研究では,○○を開発する.

論文の中で開発はできない.

同じ意味の言葉が重複しないようにする

× 提案手法では,各フレーム毎に○○を検出する.
○ 提案手法では,フレーム毎に○○を検出する.

「Mt. 富士山山」や「馬から落馬」みたいな表現.

省略されている主語を一致させる

× ○○の精度が向上することでシステムを安定化させる.
○ ○○精度を改善することでシステムを安定化させる.
(2019年3月,B4)

「向上する」の主語は「精度」で,この「向上する」は自動詞. 「安定化させる」の主語は「開発者」とか「我々」であり,「システム」は目的語なので,「安定化させる」は他動詞. 「○○することで△△する」の○○と△△の主語が違うからおかしくなる.

まとめ

  • 修正後文字数が減っている場合が多いことが分かる.情報量を減らさずに文字数を減らすように試行錯誤すると自然と良くなる事が多い.
  • 大学で習うような高度な知識は全く必要ない簡単なことばかりだと分かる.自分を含めて殆どの人が,研究室配属されて個別に添削指導を受けるまではこの程度のことができなかった. いかに日本の教育が間違っているかということじゃないだろうか.
  • ここに書いたのは表面上の誰でもできるチェックばかりだけど,構成や内容にかかわることは,もう少し抽象的な考えが必要で,やっぱり伝えるのは難しい.
  • まだまだ,こうした例はあると思う.引き続き良い例が見つかれば追記していく.