2012年7月4日水曜日

王様のタイル貼り


ある王国の王様はとても権力があり,国民にも好かれていました.王様は何でも自分でやってみるのが好きで,パンを作ることや麦を植えること,ナイフを研ぐこと,草刈,掃除と色んなことに挑戦していました.それらは王様にとって,とても楽しい事だったのですが,どうも楽しさが足らないような気もしていました.

ある日,王様がふとお城の壁を見たところ,そこに不規則に貼ってある白と黒のタイルの模様がかわいいウサギに見えてきました.これはすごいと,他の部分も何かに見えないかと探してみましたが,どうも動物などに見える模様は無かったので,もう一度さっきのウサギを見てみました.すると,さっきまでウサギに見えた模様が見方を変えるとカニにも見えてきました.もっと違った見方でタイルを眺めようとすると女の人にも見えるではありませんか.王様はうれしくてうれしくたまりませんでした.そして一晩中,なぜ,あの不規則な模様がウサギに見えたり,カニに見えたり女の人にまで見えるのか考えました.眠れないので,紙とペンでウサギに見えるように黒と白の四角を描いてみましたが,どうみてもそこにはかろうじてウサギに見える模様が1つあるだけです.何度も何度も模様を描いてはその不思議な現象の理由を見つけようとしました.そして明け方,ついに王様は自分なりの結論に達しました.ウサギに見えるように模様を作るのではなく,何も考えずに不規則な模様を描けば偶然に色んな物や動物に見えてくるのだと.

王様は,自分でお城の壁のタイルを貼りたくなりました.お城を囲む高くて横に長い塀に黒と白のタイルを貼ることにしました.家来に黒のタイルも白のタイルをいっぱい用意させました.王様は,なるべく不規則な模様になるように,左上から順番に下に貼ってゆき,一番下までゆくと,またその右隣に上から順に張り続けるのです.もちろん黒と白のタイルには,選び方もなく,無作為で決めてゆきました.ある程度貼り進めたので,ちょっと離れて休んでいると,期待どうり模様は何か渦巻きのように見えてきました.もっとよく見ると風車のようにも見えなくもありません.王様は大喜びです.王様の考えは正しかったのです.その日から,毎日毎日,タイル貼りに明け暮れました.

そして,だんだん横に伸びてゆくタイルの模様に,国民も気がつくようになりました.ある人は,王様は自然の風景を描いているのだと思いました.また,ある人は,王様の貼るタイルの模様は,人々が踊る様子を表していると思いました.次々に出てくる模様に,王様と同様国民も楽しみました.そして国民は,だんだんと次に出てくる模様を早く見たいと思うようになりました.たぶん,なすびとトマトが出てきたので,次はピーマンではないか?馬とラクダだから次は牛じゃないか?国民は次の模様が知りたくて知りたくたまらないので,こんなふうに王様が何を考えて,模様を描いているのか想像するようになりました.もちろん,誰にも分かるはずはありません.王様は,そんなことを考えてタイルを貼っている訳ではないからです.

ところが,そんなタイル貼りが続いているとき,一人の占い師が国民に,「私は,王様が次に何色のタイルを貼るか当ててみせましょう」と言いました.国民は始めは信じませんでしたが,その占い師は本物でした.確かに王様はその占い師が予言したとおりにタイルを貼り付けていたのです.

王様にもその予言の話は伝わりました.当然,信じられないので,占い師を呼び出し予言させました.占い師は,10年先のタイルまで予言してそうすると自分が貼り付けたタイル,確かにその予言どおりに貼っていたのが分かりました.王様は,びっくりしましたがうれしくもありました.今まで一人でタイル貼りをしていましたが,この預言書があれば,家来達に手伝わせることができ,もっと早く色んな模様に見ることができると思ったからです.その日から王様はその預言書どおりにタイルを貼り付けるようになりました.

今までと同じようにタイルの模様は色んなものに見えましたが,国民はみんな次にどんな模様が現れるのか預言書を見て知っています.国民はだんだん次に現れる模様を想像するのが面白いと思わないようになりました.王様も同じです.そうしてタイル貼りはいつの間にか止めてしまいました.お城の塀の模様は,まだ残っていますが,その続きのタイルを貼ろうとする人は誰もいません.だって,次に何色のタイルを貼れば,どんな模様がでてくるか,みんな知っているからです.タイルを貼る必要もないのです.