2012年7月4日水曜日

高卒就職で教育改革

「大学生のレベルが低下している」、「少子化で中堅大学の入学志望者が人気の高い大学に流れたためだ」、「ゆとり教育の弊害だ」などなど、よく聞く言葉である。大学院生を教育した経験から、これらは大方真実だろうと思う。しかし、こういった言葉は所詮無責任な批判にすぎない。私は微力ながら日本を支える一人の成人として、ここで建設的な提案をしたい。まずここで述べたい問題点を整理し、次に提案の詳細を述べる.

大学生レベル低下の問題

学部の前半2年間を無駄に過ごしてしまう

学部時代の前半2年間は、一般教養の単位取得、飲み会、麻雀、バイト、クラブ活動、これで殆どの時間を費やしてしまう。高校時代思い描いていた、大学の専門的な勉強に殆ど触れないまま、その志は腐っていく。受験勉強で疲れはててしまった反動でどうしても遊びまくってしまうのだ。その後の2年間は前半の気が抜けた生活のせいで思うように受験勉強のようにはエンジンがかからずに研究室配属に至る。

研究よりも就職活動に専念してしまう

大学生は、研究が始まる頃と同時に就職活動が始まる。不景気の就職難もあり最近は早めに活動を開始したりする。一旦就職活動を始めてしまうと、それだけに専念するようになり、研究どころではない。誰もがブランド志向で就職活動をするので希望は大手企業に殺到するため就職活動に相当な労力を割くことになる。企業側も、良い学生を取ろうと必死である。研究の軌道が乗りかけていても、研究など真面目にしない大学生と同じように扱われて、4月の採用まで宿題をだしたり、何かと研修と称して勝手に働かせたりする。学生はまだ正式に採用が決まっていない会社に言われれば、弱い立場から学業よりもそちらを優先してしまうのである。卒業論文・修士論文がいいかんげんに終わっても、大学側が卒業・修了させなければ、不良債権(実際そう呼ばれる)が残ってしまい、卒業できない学生が研究室に残っても研究室の雰囲気を乱すだけ。逆に、既に就職が決まっている学生にとってみればただの災難で、論文などどうでもいいから卒業単位をもらって就職したいだけなのである。

これらの問題は総じて言えば、大学生活を無駄に過ごしているというだけであり、その原因は、学生自身に自立心がないことである.つまり、無駄に過ごしても自動的に生活費や学費が自動的に供給される仕組みがあるから、それらが提供されることが当たり前になってしまうのである.そのような学生が千人以上の規模で存在する以上、個々の学生の問題というよりは社会の仕組みの問題である.

高卒後に働いて学費を稼ぎ、入学・就職試験で評価
私が提案するのは、政府主導のもとで高卒の学生に対して任期3年程度の就職を斡旋し、自ら稼いだお金で大学に進学することを支援する政策である。この政策により以下の効果を期待する。
  • 大学生の自立心を育成する
  • 入学試験以外の評価基準の採用を促す
  • 過度な就職活動により学業が妨げられることを防ぐ
  • 大手企業への就職希望殺到を軽減する
就職先は?

ではどこを斡旋するのか?一番良いのは、農業、漁業、林業などの第一次産業、自衛隊、伝統工芸などおよそ大学生が一生知ることのなくかつ国家の基盤となる職業である.これにより、一次産業の高年齢化を食い止める効果も期待する.また、このような国家の基盤となる職業を体験させることにより、そういった職業の重要性を認識できるようになると考えられる.学生どおしの情報交換を通じて他の職業についても偏見なく知る良い機会となる.大学生は卒業すればいずれの職についたとしても人の上に立つ人財になる可能性が高い.人の上に立つ者は,その下の者達の苦労も知る必要がある.まさにこれは,会社が行う研修を国家が教育の一環として行うことと同じである.

希望者は確保できるか?

そもそもこのような制度ができたとして、希望者は確保できるのか?徴兵制のように国民全員一定の歳で仕事させる懲役制も考えられる.しかし、懲役制となるととたんに反対者が増え実現は困難になるのではないか.しかも義務となったとたんに自主性を失い本来の目的である自立心を養うことにはならない.希望者を確保するためには、それなりのメリットが必要である.簡単な方法は,役人の採用で公務員試験だけでなくこのような経験を評価に入れることである.そうすることである程度、人数が増え、効果が確認できれば企業側もどうようの評価規準を採用し始めるのではないか.

効果は? 

効果があるのは、もしかしたら中堅クラス以下の大学入学を希望する学生だけかもしれない.そのようなメリットがなくても就職の心配をしない優秀な人もいる.本当に優秀な人は,そういった回り道をさせずに本来の目的の学業を突っ走る必要もある.ターゲットはあくまでも特別な目的意識も持たずに周囲の学生と同じ行動をとるだけの目的で大学に入学してくる学生である. 

段階的に規模を拡大でき、様々な微調整もできるこの政策はかなり現実的で強力な教育改革になると 信じている.