2022年12月2日金曜日

サーストンの一対比較法って何?

サーストンの一対比較法を理解する」シリーズとして今回はサーストンの一対比較法がどんな手法なのか,他の方法との違いや欠点はどんなものなのか解説する. サーストンの一対比較法は,感覚を数値化する方法. 感覚とは,例えば,「イケメン度合い」とか「美味さ」,「肌触り」とか一見,数値化が難しそうな感覚のこと. そんな曖昧で抽象的な感覚の優劣を数値化できる方法がある.

5段階評価じゃダメなのか?

感覚の数値化と聞いてすぐに思いつくのは5段階評価. 例えば,10種類のビールの「キレ」の良さを評価したいなら「このビールはキレが良い」のような説明文を設けて, その文に同意できるか否かを次の1~5の選択肢から回答するというもの.

1. 全く同意できない
2. 同意できない
3. どちらともいえない
4. 同意できる
5. 非常に同意できる

この数値をリッカート尺度という.こうすると複数の異なる説明文に対して同じ基準で感覚を数値化できる. 多数の被験者の回答を平均すれば1.0~5.0の実数値で各ビールの「キレ度」が得られる. ただ,尺度を求めるべく実際に被験者にアンケートしようとすると結構難しい. というのも一本目を試飲した段階でキレが良いか回答するのは難しく,他のものを飲んで比べてみたくなる. 何らかの基準となるビールが用意されているか,全てのビールの「キレ」のおおよその分布を知らない段階で,最初に試したビールがどのくらい「キレ」が良いのか判断しずらい. というのも,こうした感覚量は相対的なものだから. でも,2つビールを比べてどちらがよりキレが良いかなら答えやすい. 全体に対して今試飲しているビールがどの位置にあるのかなどとは考えなくても良いから.

比較するだけで数値化される一対比較法

そんなときに使える方法がサーストンの一対比較. 一対比較法は「AよりBの方が良い」などと優劣を答えるだけでAのキレ度は1.5などの感覚量を数値化できる手法. ただし,得られる数値の原点(0をどこにするか)や単位には意味がない(どのようにも設定できる)ので注意が必要. 意味があるのは「AよりBの方が良い」とか「AとBの差よりもBとCの差の方が2倍ある」など相対的なもの.

サーストンの一対比較法の欠点

サーストンの一対比較法にも欠点がある.致命的な欠点は,全員が同じ回答する程2つの優劣が明らかな場合計算できないこと.ちょっとした対処法で計算できなくなる事態は回避できるけど理論的な正しさはなくなってしまう.

もう一つの欠点も結構致命的.比べるものが多くなると被験者の回答時間が急激に増加してしまうってこと. 例えば,ビール10種類の場合は,$_{10}C_{2}=45$回も2杯のビールを飲まないといけない. リッカート尺度を使う場合は10杯で済む.

なぜ比較するだけで数値化できるのか?

ところで,なぜ2つを比較するだけで数値化できるのか?不思議じゃないですか? それを理解するためには理論を理解しないといけない. 幸い,この手法の理論は,大学の教養で習う統計の知識があれば理解できる. このシリーズでは「統計」も忘れちゃってる(授業中寝てた)人にも分かるように説明するつもり. そのために,まず「サーストンの一対比較法でのデータ収集方法と解析方法」で,どうやってサーストンの一対比較を使うのかデータの集め方や解析方法を説明してみる. その後,「サーストンの一対比較法の理論を理解する」で,なんでその方法で数値化できるのか理論の部分を説明してみる.

参考文献

  1. 佐藤 信: "統計的官能検査法" 21章「サーストンの一対比較法」, 日科技連, pp.271-280, 1985.